5回シリーズ「人材活用について」の最終回「人的資本の活用、情報開示対策として欠かせないもの」についてお届けします。
連載「人材活用について」
目次
- 「人的資本」への注目が集まる背景
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DX人材の不足
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人的資本の情報開示の義務化
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人的資本ISO30414とは
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人的資本の活用、情報開示対策として欠かせないもの
5.人的資本の活用、情報開示対策として欠かせないもの
前回🔗、研修の履歴やフィードバックが整備されていれば、人的資本の情報開示について、ISOの項目の開示は着手しやすいとお話しました。研修履歴の管理には、優れたLMS(ラーニングマネジメントシステム)の選択とその前提となる企業戦略が重要です。
①LMS ラーニングマネジメントシステムとは
LMSとはLearning Management Systemの略で、「学習管理システム」とも言われます。インターネットやパソコン、スマートフォンで学習を行うeラーニングを実施する際のベースとなるシステムです。「学習管理システム」という言葉のイメージから、学習を管理するためのシステムのように思われがちですが、管理者向けの学習管理というより、主に受講者に向けて学習しやすく効果の高い学習環境を提供することに重点が置かれています。
人材育成分野へのテクノロジーの応用は、日本ではまだあまり進んでいないかもしれませんが、情報開示に向けては、今後必須です。人事システムを更改するのは大変ですが、LMS:ラーニングマネージメントシステムなら、比較的、着手しやすいのではないでしょうか。
<LMSの活用が有効な理由>
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②企業戦略にあわせた人材育成
デジタル人材が採用できない、新規事業を創出する人材がいない、優秀な人ほど辞めてしまう、と悩む企業は多いようです。優秀な人が辞める理由は「この会社では学べない」、つまり、自分自身のスキルの向上や、学んだことを活かせない企業には、いい人材が集まらないのです。
前回もご紹介しましたが、デジタル人材についても、外から採用できないのであれば、今いる社員のスキルアップをして戦力強化しようと考える企業も多いようです。実際、テクノロジーの進化が速いので、採用しているよりも社内でスキルをつけたほうが早く対応でき、業務のなかで学んでもらうほうが効率がよい場合も増えてきています。また新規事業を始めるにあたっても、社内をよく理解している人に新規事業創出の視点や感覚を身に着けてもらうのが、最も有効だといえます。政府が提唱している、リスキリング(学び直し)も、一人一人がスキルアップし、自助努力でキャリアアップしてもらうことも期待しているのです。
社員の学びの場として、社員研修の有り方がとても重要になっています。従来、研修というと「セキュリティ」「ハラスメント」等の必須研修を思い浮かべる方も多いですが、もっと、個人の能力を向上させるための研修の機会も用意すべきです。コンテンツについては、社内だけで閉じて考えなくても、最近は、社外にも、質のよいコンテンツを提供する研修がありますし、無料のセミナーや動画のなかにも、営業目的ではない内容のあるものも増えてきました。2020年以降、オンラインでの提供も増加しているので、学びの機会はたくさんあります。
③人材育成とテクノロジー
ここで企業として大事なことは、企業の方針や人事計画とあわせた体系的な研修プログラムの企画と、実施した結果から得られるフィードバックを社員個々の成長にあわせた次の研修へ活かすサイクルになっているか、という点です。その場しのぎの研修や、研修した結果を次に活かすことをしていなければ、せっかくの研修が無駄になってしまいます。企業戦略から人材育成へ、このサイクルを回すにはテクノロジーが必須です。
新規事業やDX化等、これまで前例のない取り組みをする場合には、それらの進捗や効果検証を可視化することが重要で、そのためには出来得る限り多くの多様な学習データの収集と蓄積が不可欠です。
④LMS利用の際に重要な観点
これらの学習履歴データを有効に利活用するには、他のシステムとの相互運用性(インターオペラビリティ)も意識し、目的をもって整備しておくことが重要です。相互運用性と目的の明確化、これらを意識してデータベースに整備さえしておけば、多様なデータから多角的な切り口で人材を分析することができます。また、単純な研修履歴だけでなく、人材に関係するさまざまな属性や人事情報、パフォーマンス等も統合できれば、個人に対してさらに深い分析も可能になります。
人材の活用、また人的資本の情報開示が問われている今、こんな悩みはないでしょうか。
- 組織別、事業部別になっている学習履歴の集計に多大な稼働をかけてきませんでしたか?
→優秀なLMSがあれば、集計結果を迅速に開示できます。 - 多くの事業部、グループ会社へそれぞれ、同じ学習コンテンツをなんどもアップする、という無駄はありませんか?
→マルチテナントという仕組みを使えば、コンテンツを一箇所にアップするだけで済み、稼働量が激減します。 - 基本的な学習履歴の進捗管理をしていた時間を、個々人への最適な育成プログラムを考える時間に充てませんか?
→進捗管理はLMSに任せて合理化し、さらに、共通形式で記録したデータから、多角的な総合レポートからの示唆を得ることができます。 - 学習管理システムLMSと人事HRシステムが組織ごとにバラバラになっていませんか?
→共通形式でこれらを統合しておけば、さらに高度な分析もできるようになります。
人的資本の情報開示だけでなく、「データ利活用」「インターオペラビリティ」も政府が推進している項目です。デジタル庁の「教育データロードマップ」(※1)では、国際標準規格である「xAPI」を使って、学習履歴を格納していくように、と推奨しています。
※1 教育データロードマップ 「教育データ利活用ロードマップ」令和4年1月7日 デジタル庁・総務省・文部科学省・経済産業省🔗
出典)「教育データ利活用ロードマップ」より筆者加工
相互接続性のある、共通規格形式のデータで記録していかないと、数年後に、使い物にならなくなるリスクがあります。
数年先も見据えて、今から準備しましょう。
人材育成ブログ(全5回)は今回で終了です。ありがとうございました。
この記事の筆者
教育プラットフォーム戦略室長 杉 眞里子
旅行会社、大手生命保険会社を経て、NTTドコモ、 日本IBMで数多くの政府政策系実証実験や官民をつなぐプロジェクトを経験。昨年12月、ジンジャーアップに入社。
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