5回シリーズ「人材活用について」の3回目「人的資本の情報開示義務化」についてお届けします。
3.人的資本の情報開示義務化
①人的資本活用の情報開示は世界的な流れ
今、騒がれている人的資本の情報開示。日本ではまだ聞きなれない方も多いかもしれませんが、世界的なトレンドになっています。
米国では、2020年8月に上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化する規制が追加され、2020年11月より順次、企業の人的資本の情報開示が始まっています。
ヨーロッパでもドイツ銀行グループ等、人的資本の情報開示として、ISO30414(※1)の認証取得する企業がでてきています。
日本でも2022年に経済産業省が、人材活用の重要性をまとめた「人材版伊藤レポート2.0🔗」(※2)を公表し、2022年8月には、人への投資の先進的な事例や効果的な情報開示のあり方について情報交換する官民共同の「人的資本経営コンソーシアム」を設立しました。「時代の転換点にある日本の未来を切り開くのは人材」と、設立総会で西村経産省大臣は述べています。このコンソーシアムの参加企業は320社と当初想定の100社を大幅に上回るなど、企業の関心も高まっています。このような流れから、人的資本に関する情報開示のガイドラインであるISO30414への関心も高まり、注目されつつあります。
ISO30414については、次回のブログで詳細をご案内致します。
※1 ISO30414:2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示のガイドライン。内部及び外部のステークホルダーに対する人的資本に関する報告のための指針
※2 経済産業省「人材版伊藤レポート2.0🔗」
②投資家の7割が注目・人材投資効率の高い企業は投資リターンも良好
なぜ、世界的にこれだけ注目されているのでしょう?
企業の人件費や研修費などは損益計算書の上では利益を押し下げる「コスト」として、これまでは、投資家からは過小評価されてきました。しかし、人材をコストではなく「資産」としてもっと活用しようという動きが世界的な流れとなってきているのです。
海外では企業価値の源泉は、工場設備等の有形資産から、人材活用等の無形資産に移っていると言われています。
最近では、投資家の約7割が「人的資本の活用」に注目している、と言われています。日興アセットマネジメントも2021年に「日本株人材活躍戦略」という投信を設定しています。実際、人材投資効率の高い企業への投資リターンは良好というデータもあります。出典)日経新聞 2022年9月28日🔗
そもそも、人的資本情報開示とは?
人的資本の活用、人材投資効率とは、わかりやすくいうと、企業における働く環境を整備し、研修等、社員の学びの機会を充実させ、育成に注力することによって、社員自身のモチベーションや企業全体の生産性をあげよう、というものです。また、社員にとって充実した労働環境を提供すること自体が、企業の付加価値となっているということです。
社員の働く環境への投資は、これまで費用と見られてきたのですが、昨今では、「労働環境の充実や優秀な人材の採用・育成こそが、企業価値を高める」と認識されています。そして、実際に、人材への投資をしている企業の収益が向上しているという事実があります。
2023年1月の金融庁の発表(※3)では、「令和5年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用(ただし、施行日以後に提出される有価証券報告書等から早期適用可)」すなわち、2023年(令和5年)4月1日以降の有価証券報告書に義務づけするとしています。要するに、どれだけ「人材育成」「人材活用」をしているかを定量的、定性的に公表しなければならない、ということです。上場企業を中心に、アメリカ同様、人的資本の情報開示が義務化されるのです。
※3 金融庁の発表:「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案に対するパブリックコメントの結果等について(令和5年1月31日)
しかし、いきなり「人的資本の情報開示」と言われても、戸惑う企業は多いと思います。既にCSR報告書、統合報告書等で人的資本に関する開示をしている場合には、その旨記載をすれば良いかと思われますが、大半の日本企業は何からどうすればよいのか、と慌てている状態なのではないでしょうか?
参考として、人的資本の開示に特化した国際標準規格(ISO30414)に準拠した報告も有効と思われます。ISO30414は、人的資本の開示項目全てがデータに基づくものであることから、人的資本に関して定量的なデータを求める投資家の期待に応えることができますし、社内の人的資本マネジメントのツールとして活用することも出来るというメリットも備えています。
次回は、
この人的資本の情報開示に特化した国際標準規格 ISO30414について、詳しくみていきましょう。
この記事の筆者
教育プラットフォーム戦略室長 杉 眞里子
旅行会社、大手生命保険会社を経て、NTTドコモ、 日本IBMで数多くの政府政策系実証実験や官民をつなぐプロジェクトを経験。昨年12月、ジンジャーアップに入社。