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専門分野を持ち、それを強調する

以前、ある印刷会社の東京支社長と会食をする機会がありました。

印刷業界もこのコロナ渦の波にもまれ、好調とは言えないようです。

しかも東京支社長とは言え、「本社の社長から、率先して「新規開拓」をせよ、との指示が出ているのですよ」とホトホト参った様子でした。
そこで、私が質問しました。「新規開拓する際の御社のセールスポイントはなんですか?」と。
すると、「うちは印刷物なら何でもお値打ちにできます」という答えが返ってきました。

私は、正直言って、それではダメだなあと思い、「何でもできるということは、何にもできないという印象を与えかねませんよ」とアドバイスしました。

考えてもみてください。印刷とは、ヨハネス・グーテンベルクが
1445年に活版印刷術を発明して以来の最も慣れ親しんだ(古い)メディアです。
どの企業も、馴染みの印刷会社のひとつやふたつはあるはずです。

今や印刷技術は、ある意味頂点を極め(特に日本の印刷技術においては)、どの印刷会社も自社で出来なくても、適当な外注先を持っていればどんな印刷物でも出来てしまいます。
そこで私は、「では専門分野を絞り込み、それを強調しましょう」と伝えました。

私が考えた作戦は、好不況に関係のない教育を例にとって、各企業に「企業内教育・研修を専門とする印刷会社です」とアピールしましょう」ということでした。

 

おそらく、その文言を聞いた企業は、「えっ、どう言うこと」と聞き返すでしょう。そこで、こう応えます。

「つまり、どんな企業でも、新入社員が入ったら業務を覚えてもらうためにも、研修が必要ですよね。特に、最近では、情報セキュリティや、コンプライアンスも研修の必須項目になっていることは、よくご存じだと思います」と。

これらの研修資料をはじめ、それを大きく表現した会社案内やパンフレット、はたまた、eラーニングのシステムや教材まで扱えるようにしたらいかがですか、とアドバイスをしました。(もちろん、ワンソース・マルチユースにのっとてこれらの内容は、デジタル化してウェブサイトに掲載することはもちろんです。)

大袈裟に言うと、企業内教育に特化した専門商社に業態変化しようということです。
研修のシステムや教材は、そのしかるべき業界の企業から仕入れれば良いし、それを実施する際に、必ず印刷物は発生します。
印刷物は直接受けて、その他は仕入れて販売する。しかも、その「その他」を強調して、他の印刷会社と差別化を図るというものです。

どんな領域でも印刷物は必要です。もっと言うと、今は説明・プレゼン資料は必須です。そのコンテンツがデジタルで共有されひとつのアプリケーションとしての印刷物があります。

そういう考え方に変換していくことだと思います。

 

そうすれば、本業である印刷物の新規開拓もできるし、他業界からの仕入れによって、新しい事業領域を創造して売上げアップを図ることができます。

合わせて、自社の会社案内とウェブサイトにも、今までの印刷会社とは違うぞということを強調するようにと助言しておきました。

その東京支社長は、大そう喜んでくださり、「今までの業界内にとどまらず、他の業界の商品を取り入れて、ひとつテーマに特化した企業に変身することですね」とご自分なりに表現されていました。

行き詰ったら、企業も個人も同じです。
自分のこれまでの枠の中だけで考えているのではなく、他の良いところを取り入れて、専門分野をつくり、それを強調していくことで、新しい自分らしさをつくり変えることができると思います。